昨今のマスク生活と家に居る時間が増えたことによる運動不足などから、ねこ背姿勢になるなど、呼吸が浅くなっている人が急増! 呼吸が浅いと心身に多くのデメリットが。そこで、呼吸が浅くなることで体にどんな影響が出るのか?また、その改善方法とは?呼吸についての細かな疑問まで、医師・医学博士の根来先生のお話の記事をご紹介。

■ちゃんと呼吸ができないと、何が問題なのか

●だるさや疲れがとれにくい

ミトコンドリアに酸素が届かず、エネルギー産生が低下し、だるさや疲れが発生。

●肩コリや腰痛が生じやすい

筋肉細胞で酸欠が起きると、肩コリや腰痛などが起きやすくなる。

●免疫力が下がる

交感神経優位で血流が悪くなり、免疫細胞が全身に届かず免疫力が低下。

●集中力が低下する

脳の細胞で酸欠が起きると、集中力が低下したり、頭の回転が鈍くなる。

呼吸が浅いと二酸化炭素が不足し、細胞が酸欠状態に

「マスクをしていると吸い込む酸素の量が下がって息苦しくなるので、これをカバーしようと呼吸回数が増え、呼吸が浅くなりがち。また、リモートワーク続きでパソコンに向かう時間が増え、ねこ背ぎみの人が多いですが、ねこ背だと気道が狭くなっておなかが圧迫され、横隔膜が動きづらくなるので呼吸が浅くなるのです」

では、呼吸が浅いとどういう問題が起きるのだろう? そこでまず知っておきたいのが呼吸の仕組み。

「呼吸というと息を吸って吐く“肺呼吸”だけをイメージすると思います。これは外呼吸とも呼ばれる呼吸ですが、実はもうひとつ、内呼吸とも呼ばれる“細胞呼吸”があります。肺呼吸で取り込んだ酸素は、気管や肺胞などを通して毛細血管に取り込まれ、赤血球のヘモグロビンによって細胞に運ばれます。細胞に着くとヘモグロビンは酸素を切り離し、ミトコンドリアに渡します。このとき酸素を切り離すのが二酸化炭素の役目で、これにより酸素がミトコンドリアに届きます。これが細胞呼吸です。この2つの呼吸によってミトコンドリアはエネルギーを生み出し、体は正しく働くのです」

問題なのは呼吸が浅いと、この細胞呼吸がうまくいかなくなる点。

「1回呼吸をすると、吸気の125倍の二酸化炭素が吐き出されます。呼吸が浅くなると呼吸の回数が増え、吐き出す二酸化炭素がさらに増えて血中の二酸化炭素の濃度が減ります。すると細胞でヘモグロビンから酸素がうまく切り離されず、ミトコンドリアに届かないため酸欠状態に。その結果、エネルギー産生が低下してだるさや疲れが生じたり、筋肉細胞で酸欠が起きると肩コリや腰痛が起きたり、脳で酸欠が起きると集中力が低下したりといった問題が起きます」

また、自律神経にも影響が。

「呼吸が浅いと自律神経のうちの体を緊張・興奮モードにする交感神経が優位になります。すると血流が悪くなるため、肩コリや頭痛、冷えなどが起きたり、免疫細胞が体の隅々に届かず免疫力の低下も招きます」

 
■呼吸が浅くなるのを防ぐためには

●口呼吸を直し、横隔膜の動きをよくして深い呼吸を

呼吸が浅くなるのを防ぐためには、こまめに浅い呼吸をリセットすることが大切。
「おすすめは、4秒で息を吸い、4秒止め、8秒で息を吐く“4・4・8呼吸”です。マスクをはずしたときに取り入れて、浅い呼吸を深い呼吸に正しましょう」


①「口呼吸を鼻呼吸にすること。マスクをしていると口呼吸になりがちですが、口呼吸だとどうしても浅い呼吸になります。これに対し、鼻呼吸は口呼吸より空気の出入口が小さいため空気抵抗が大きく、自然とゆったりした呼吸になります。また、もうひとつが呼吸筋を正しく使えるようにすることです。呼吸が浅いと、横隔膜などの呼吸筋が使われず衰えてしまいます。するとふだんの呼吸がどんどん浅くなり、深い呼吸をしようとしてもうまくできなくなります。ですから横隔膜をよく動くようにすることも大切です」

横隔膜は肺のすぐ下にあるドーム状の筋肉。

「理想的なのは、肺の上から一番下までに空気を送り込む、横隔膜の可動域を最大限に使った呼吸。まずは自分の横隔膜の可動域を左のチェックテストで確認してみましょう。ねこ背姿勢になっていると横隔膜をはじめとする呼吸筋がこり固まり、胸郭が閉じて浅く短い呼吸に。下で紹介するような胸郭をしっかり開くストレッチで呼吸筋を活性化させましょう。また、息を吐くのが苦手な人には風船がおすすめ。頰が膨らまないように口をすぼめておなかからゆっくり長く息を吐き風船を膨らませる。息を吐きながら横隔膜が上がっていく感覚をつかんでみて」。

《吸う》

両手を肋骨のわきに当て、鼻から息を吸い、肋骨が前後左右に広がるか確認。横隔膜が下がりきっていないと十分に広がらない。

《吐く》

鼻から息を吐いたとき、肋骨が閉じて下がるか確認。横隔膜がしっかり上がっていないと肋骨があまり閉じず下がらない。

②即効リカバリー呼吸の4・4・8呼吸法

「一般的な1分間の呼吸数は12〜20回ですが、4・4・8呼吸は1回16秒かかるので1分間の呼吸数が約4回と少なく、マスク着用で速く浅くなった呼吸をゆったりした腹式呼吸に切り替えられます。人のいない場所でマスクをはずして取り入れましょう。副交感神経も優位になり、リラックスするこの呼吸法、『鬼滅の刃』の“全集中の呼吸”をイメージして行ってみてもよいかもしれません(笑)」

《1》楽な姿勢をとり、まず腹式呼吸を2〜3回繰り返し、鼻から息を吐ききる。次に4秒かけて息を吸う。

《2》4秒息を止める。

呼吸をいったん止めるのはなぜ?

「途中で息を止めると、体内の二酸化炭素が排出されないので、血中の二酸化炭素濃度が増え、浅い呼吸で大量に放出されて不足した二酸化炭素濃度を正常に戻せるからです。4秒間しっかり息を止めましょう」

《3》8秒かけて鼻から細く長く息を吐く。おなかを絞るようなイメージで。1〜3を4回繰り返す。

■胸式呼吸はよくないのか

「胸式呼吸は交感神経を優位にするのでやる気を出したいときなどにはよく、悪いわけではありません。ただ、浅い呼吸になりやすく、続けると不調の原因に。ただでさえ現代人は胸式呼吸に偏りがちなので、腹式呼吸を意識的に取り入れて」